結婚適齢期という言葉は死語になったが、一哺乳類であるヒトには妊娠に適齢がある。加齢により染色体異常や子宮内胎児発育遅延、妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病、妊産婦死亡などの異常妊娠が増加し、また、限りある妊娠能力も低下するという統計がある。
近年初婚年齢の上昇はもちろんだが、自身のキャリア維持や生活のために妊娠も先送りにする傾向があり、妊娠女性の高年齢化が進んでいる。当院でも開院した2002年3周期以上治療した不妊外来患者116名の当院初診時平均年齢は30歳8ヶ月であったが、2010年の225名では34歳4ヶ月となっており、わずか9年で3歳半も上昇したことになる。そしてこの傾向はどの不妊治療施設でも同様である。
JAMA(1935;105:1423)には94歳男性の妻が妊娠した報告があるように、精子は74日かけて毎日造られ続け年令との関連は少ないが、女性では胎児期に最大200万個あった卵子は出生時には既に約50万個に減少し、その後も減り続けて50歳で0に近くなる(閉経)。その途中で受精能力は低下し、染色体異常も増加するため卵子のほうが加齢の影響は大きい。
40歳になるとダウン症候群など染色体異常が増えることはよく知られているが、流産も不妊症も加齢により増加することはあまり知られていない。Science(1986;233:1389)には不妊症の頻度は20代前半が6%、40代では64%と報告されている。
一方、体外受精を世界で初めて成功したRobertG.Edwardsが昨年ノーベル生理学・医学賞を受賞したようにこの技術を含む生殖補助医療(ART)は不妊に悩むカップルに多くの福音をもたらし、現在、日本でも毎年2万人、生まれてくる子どもの約50人に1人が体外受精児の時代になり、体外受精さえ受ければ妊娠できると勘違いしかねないほどである。
しかし、ARTも万能ではなく、2008年にわが国では19万613周期のART治療が行なわれたがその妊娠率は低く、採卵当たり10.9%、胚移植当たり21.9%でしかない。その原因はARTでの妊娠率が20代で30%、40歳になると10%以下という事実から患者の高齢化が起因している。
妊娠・出産をしても仕事を続け、育児ができる環境の整備はいうまでもないが、妊娠能力をなくして初めて後悔することがないよう、妊娠・出産には適齢期があることを声を大にして言いたい。そして妊娠適齢期に対する認識を遅くとも中学生になった時点では持たせることは意外と重要で、少子化の歯止め法の一つかもしれない。
また、子宮頚ガン予防ワクチンが認可され吹田市でも中学生と高1の女子を対象に接種費用の公的助成が始まっているが、接種の意義を理解して来院している子たちは少ないように思う。中学生の女子に将来を見据えて・・・などと難しいことを言うつもりはないが、生まれ持った卵子にも寿命があり老化は早いこと、子宮頚ガンにはワクチン接種と二十歳を過ぎれば子宮がん検診の必要性を、避妊や性感染症とともに学校教育の一環として、この機会に考え直して頂けると有難い。
※資料参考 国際医療技術研究所
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